稀立地インタビューvol.1 NAOTO FUKAZAWA×MOTOHIKO FUJIWARA

「限られた供給に対して、
圧倒的な需要が存在する
土地」=稀立地(マレリッチ)。

この対談では、そんな稀立地(マレリッチ)というコンセプトを広めていくために、文化的活動の第一線でご活躍されている方に、歴史や文化性をもった土地についてのご知見やご経験を聞きます。

記念すべき第一回の対談相手は、世界的なプロダクトデザイナーの深澤直人さん。自身の住まい選びの哲学から、現在進めている新たな家づくりの挑戦まで、タカマツハウス代表・藤原との対話を通じて、「稀立地(マレリッチ)」の真の魅力に迫ります。

  • 藤原社長

    本日はよろしくお願いします。
    我々は「稀立地(マレリッチ)」というコンセプトを「限られた供給に対して、圧倒的な需要が存在する土地」と定義しています。つまり、単なる希少性や利便性だけでなく、「住環境としての質の高さ」、そして「時を経ても色褪せない価値」を兼ね備えた場所のことです。

  • 深澤さん

    「稀立地(マレリッチ)」とは非常に面白い言葉ですね。その土地が元来持っている価値を見つめ直し、それを理解してくれる人に届ける、ということでしょうか。

  • 藤原社長

    おっしゃる通りです。このインタビューでは、土地が持つ歴史や文化、そして暮らしの豊かさといった物語を一緒に紡いでいきたいと考えています。

土地選びの「ものさし」-
なぜ駒沢公園だったのか

土地選びの「ものさし」- なぜ駒沢公園だったのか
  • インタビュアー

    早速ですが、深澤先生にとって馴染み深い「桜新町・駒沢エリア」についてお伺いします。このエリアに特別な思い入れがおありだとお聞きしました。

  • 深澤さん

    僕にとっての絶対的な目的は緑豊かな公園でした。デザイナーという仕事柄、土地や物件を見ると「ここで何ができるか」を自然と想像します。だから、多くの人が優先する「駅からの距離」や「部屋数」といった条件とは、少し違う「ものさし」を持っているんです。

    一般的な家探しが条件の足し算だとすれば、僕の場合は「ここに住みたい」という直感が先にあって、その感覚に合うかどうか。その感覚の根底にあったのが、駒沢公園の存在でした。あの公園は、週末こそ多くの人で賑わいますが、平日は近隣住民だけのものになる。その、日常の中にある圧倒的な贅沢さが魅力でした。しかし、ご存知の通り、公園の輪郭周りはすでに成熟した住宅地で、手頃な土地など見つかりません。

    そこで、少し範囲を広げ、公園から徒歩5分圏内で探し始めたのです。自転車で走り回ったり、自然の中を散策したり、暮らしの中に公園が溶け込んでいる環境が理想でした。

土地選びの「ものさし」- なぜ駒沢公園だったのか
  • 藤原社長

    ちなみに、その辺りは昔、何か特別な歴史がある場所だったのでしょうか?

  • 深澤さん

    もともと、ゴルフ場だった土地です。それを持っていた方が、世田谷の三大地主ということでこの辺りを全部持っていた方のようで、その巨大な土地の中にだんだん住宅が建ち始めて。

    この辺って、駅から遠いんです。世田谷の一等地なのに駅が遠い。でも、だからこそ、車での移動が中心で、家で仕事をするようなライフスタイルの人々が集まってきた。すると、「通勤の利便性」という尺度が外れる代わりに、「窓の外に広がる緑」といった、暮らしの質に直結する価値が浮かび上がってくるんです。

    僕がここ数回の住み替えで一貫してこだわっているのは、「すべての窓から緑が見えること」。住宅が密集する現代の東京で、この条件を満たすのはまさに「稀」なことです。多くの人は、立地の価値が高ければ、窓からの眺めは二の次と考えがちです。しかし、実際に暮らしてみると、窓を開けた先に隣家の壁が見えるというのは、想像以上に悲しいものです。不動産価値という一面的な評価だけでは見えてこない、その土地が持つ本質的な心地よさ。それを見極める「プロの目」が、これからの家選びには不可欠だと感じています。僕にとって、公園と緑は何よりも重要な要素でした。

直感と「縁」が導く、
唯一無二の土地

直感と「縁」が導く、唯一無二の土地
  • 藤原社長

    駒沢公園周辺は、今でもリタイア後の住処として絶大な人気があります。良い土地は、本当に一瞬で市場から消えてしまいますね。

  • 深澤さん

    まさに。迷っている暇はありません。「探しています」と宣言したからには、その日のうちに契約するくらいの覚悟がないと、縁は掴めません。

  • 藤原社長

    「一度買い逃した経験のある方ほど、次のチャンスには即決される」というのは、我々の業界の定説です。土地は、この世に二つとない一点物ですから。

  • 深澤さん

    面白いもので、ネットで探すよりも、実際に自分の足で歩いて見つけることの方が多いんです。ここも、この辺りを散歩していて、偶然タカマツハウス不動産(旧社名ミブコーポレーション)さんの看板を見つけたのがきっかけでした。裏にちょうど家が建ち始めたタイミングで、「ここだ!」と直感し、即決しました。

  • 藤原社長

    そうでしたね。本当に不思議なご縁でした。我々も、本当に価値のある土地は、ネットで広く告知するのではなく、その価値を理解してくださる方に直接ご紹介したいと考えています。

直感と「縁」が導く、唯一無二の土地
  • 深澤さん

    街全体の雰囲気、いわゆる「アトモスフィア(※1)」や「アンビアンス(※2)」も非常に重要です。家という閉じた空間だけで暮らすわけではありませんから。その土地を取り巻く空気感こそが、最も価値あるものかもしれません。

    その点、桜新町は面白い街です。国道246号線から一本入っているため、都心に近いにも関わらず驚くほど静か。そして何より、「サザエさん」の街としての歴史が、街全体に温かく、どこかほんわかとした空気感を与えています。大きな商業施設やチェーン店は少ないかもしれませんが、それが逆に、この街ならではの穏やかな暮らしやすさに繋がっているのだと思います。
    ※アトモスフィア(※1):場所や空間が持つ独特の「雰囲気」や「ムード」のこと
    ※アンビアンス(※2):ある空間や場所が総合的に生み出す「空気感」「居心地」のこと

  • 藤原社長

    アットホームで、温かみのある街並みですよね。三軒茶屋のような賑やかさとはまた違う、落ち着いた魅力があります。駒沢エリアにはセンスの良い個人店も多く、そうした街の成熟度も住む人にとっては大きな価値になりますね。

  • 深澤さん

    ええ。感度の高い人々が自然と集まる。それもまた、街の価値を形成する重要な要素です。

環境が与える価値 -
「土地のアフォーダンス」とは

  • インタビュアー

    先生が言われる「アフォーダンス」という概念について、ぜひお伺いしたいです。土地というものが持つアフォーダンス、つまり土地が人に与える価値とは、どのようなものだとお考えでしょうか。

  • 深澤さん

    アフォーダンスとは、人が環境から無意識に感じとっている価値のことです。例えば、ぬかるんだ道を歩く時と、固く乾いた道を歩く時では、人は無意識に歩き方を変えますよね。それがアフォーダンスです。
    これを土地に当てはめてみると、「なんだか心地いいな」と感じる感覚、それが「土地のアフォーダンス」と言えるかもしれません。それは、日当たりや方角といった単純な条件ではなく、その土地の歴史や周囲の環境、街の空気感といったものが複合的に作用して、人に無意識の快適さを与えている状態です。
    だからこそ、デザイナーとしては「すべての条件を満たしてください」という要求には、「それはやめた方がいい」と答えることが多い。すべてを足し算するのではなく、何を残し、何を「捨てる」か。その取捨選択こそが、本当に価値あるものを見つけ出す鍵になります。

  • 藤原社長

    「南向き信仰」のような、世の中の常識に囚われすぎると、その土地が持つ本来の価値を見失ってしまう、ということですね。
    例えば、湾岸エリアのタワーマンションでは、南向きの部屋は反射熱がすごく、家具も焼けてしまうため、むしろ北向きの方が人気だったりします。日差しをたくさん取り入れたいという気持ちは分かりますが、巨大な窓が南側にあると、かえって住みづらいこともある。

環境が与える価値 - 「土地のアフォーダンス」とは
  • 深澤さん

    昔サンフランシスコのパシフィックハイツというところに住んでいたことがありましたが、一番良い部屋はみんな北を向いていました。ゴールデンゲイトブリッジが見える北側です。そうでないと南は日差しが入り過ぎて暮らせないということもあります。家づくりとは、こうした常識を疑い、自分にとっての「心地よさ」のプライオリティを見極めていく作業なんです。

常識を疑う -
「旗竿地」をデザインの力で
ポジティブに

常識を疑う - 「旗竿地」をデザインの力でポジティブに
  • インタビュアー

    先生は、次なる住まいとして、「旗竿地」に新たな家を建てられているそうですね。これはとても興味深い選択です。

  • 藤原社長

    旗竿地、ですか! 一般的には敬遠されがちな土地ですが…。

  • 深澤さん

    ええ。だからこそ、面白いと思ったんです。「道路に面した土地の方が価値が高い」という常識を、一度疑ってみたかった。旗竿地は、竿の部分が通路や駐車場としてしか機能せず、奥まった旗の部分に窮屈な家を建てるしかない、というのが一般的な認識でしょう。しかし、僕が出会った土地は、その「竿」が少しだけ広かった。L字型のその土地を見た瞬間、「竿の部分にこそ、建物を建てよう」とひらめいたんです。

    建物を竿に沿ってL字に配置し、周囲を緑で完全に囲んでしまう。そうすれば、窓の外には緑しか見えない、プライベートな空間が生まれる。いわゆる「旗竿地」というネガティブな条件を見極めてポジティブに反転させられる。これこそがひらめきで、機会だと感じました。

  • 藤原社長

    それはまさに、深澤先生ならではの発想ですね。しかし、実は旗竿地を好んで選ばれるお客様もいらっしゃるんです。プライバシーを重視される芸能人の方などに多いのですが、「家の周りを家に囲まれている方が落ち着く」と。外部からの視線を完全に遮断できるというメリットは、確かにあります。

  • 深澤さん

    周囲の視線を遮りつつ、いかにして「借景」を取り入れるか。そこがデザインの腕の見せ所です。建築基準法ギリギリに建物を建て、半地下にガレージを設ける…といった画一的な解決策では、東京の街はどんどんつまらなくなってしまう。竿の部分を、単なる通路ではなく、19メートルにも及ぶ長いアプローチ空間としてデザインし、京都の町屋のように、奥へと誘う期待感を演出する。そうした知恵と工夫で、土地の価値はいくらでも高められるはずです。

  • 藤原社長

    19メートルのアプローチとは! 新しいお住まい、完成が楽しみですね。

おわりに :
読者へのメッセージ -
「腹を決める」勇気

おわりに : 読者へのメッセージ - 「腹を決める」勇気
  • インタビュアー

    最後に、これから家や土地を探す方々へ、稀立地(マレリッチ)を見つけるためのアドバイスをお願いします。

  • 深澤さん

    「自分はどんな土地で、どんな家に住みたいのか」という問いを、突き詰めて考えてみることです。多くの情報に触れる中で、好みは揺らぎ、分散していくものです。しかし、本当に良いものをたくさん感じていれば、自分の「好き」の輪郭は、自ずと絞られてくる。最終的には、「自分はここで生きたい」と腹を決められるんです。

    その覚悟がないまま探し始めると、目先の情報に惑わされてしまう。「白い車を買いに行ったはずが、隣にあった青い車を買って帰ってきた」という話は、家や土地探しでも本当によくあることです。だからこそ、自分が本当に大切にしたい価値は何か、その軸をしっかりと持っておくこと。そして、その想いを汲み取り、形にしてくれるプロフェッショナルな伴走者を見つけること。それが、後悔しない家と土地選びの鍵だと思います。

    多くの人が思い描く「幸せな家のテンプレート」に自分を合わせるのではなく、自分だけの「納得できる価値」を見つけ出すこと。それこそが、「稀立地(マレリッチ)」に住まうということの本質ではないでしょうか。

  • 藤原社長・
    インタビュアー

    本日は、示唆に富む大変貴重なお話をありがとうございました。

■プロフィール

深澤直人

プロダクトデザイナー

デザイナーの個性を主張するのではなく、生活者の視点にたって人の想いを可視化する静かで力のあるデザインに定評がある。日用品や電子精密機器からモビリティ、家具、インテリア、建築に至るまで手がけるデザインの領域は広く多岐に渡る。デザインを通して対象の本質にせまる力、その思想や表現などは国や領域を超えて高い評価を得ている。
世界で最も影響力のあるデザイナーの一人である。
文化庁 令和7年度芸術選奨文部科学大臣賞、German Design Award 2026 – Personality of the Year、イサム・ノグチ賞など受賞歴多数。
ロイヤルデザイナー・フォー・インダストリー英国王室芸術協会(RDI)の称号を持つ。
21_21 Design Sightディレクター、良品計画デザインアドバイザリーボード。THE DESIGN SCIENCE FOUNDATION 設立者。多摩美術大学副学長。日本民藝館館長。
著書に「ふつう」、作品集「EMBODIMENT」、「デザインの輪郭」などがある。

藤原元彦

タカマツハウス株式会社 代表取締役社長

1985年大学卒業後、積水ハウス株式会社入社。数々の支店長・営業本部長を歴任し、2010年執行役員、2012年常務執行役員に就任。
2019年タカマツハウスの創業社長に就任。髙松グループが新たに手掛ける木造戸建事業の立上げを行った。
タカマツハウスでは、これまでの知見を活かし、設立6年目で売上高353億円の企業に成長させた。座右の銘は「一期一生(自作)」

稀立地トップページへ戻る